さて、メインテーマの「3D効果でイラストを描く」ことについて考えてみましょう。はたしてIllustratorの3D効果でイラストは描けるのでしょうか?
↑未公開分。ハンバーガーは極座標で乗り切りました!
結論から言えば描けます。が、普通の3Dソフトのように、モデルを作って構図を決めてレンダリングという使い方はほぼ出来ません。
そのような使い方を想定していた人は諦めましょう。それはIllustratorでなく、他の3Dソフトの方が全てにおいて優れています。
Adobeが提唱する使い方は、缶や箱などのパッケージにデザインを貼り付けて完成見本を作る程度のものです。確かにそれならほとんど破綻もせず使えます。
3Dの空間もなく、押し出しと回転体だけでモデルを作らなければならないうえ、複数オブジェクトの合体や削ることもできません。
作れるオブジェクトが大幅に制限されるので、レモンやキウイは作れてもバナナは作れない。これでいろいろなイラストを描こうとする方が無謀なわけです。
しかし、せっかくここまで検証してきたので、3D効果でイラストもしくはパーツを作成する方法を考えてみましょう。
●そのままイラストとして使う
・1グループで作る
缶とか瓶とか花瓶とか。Adobeの提唱する使い方はこれですね。
あと思い付くのはルービックキューブ、ビーチボール、積み上げられたガンプラ。
この程度なら破綻しません。
↑アートワークはこんな ©創通・サンライズ・バンダイ ©メガハウス
前提として1オブジェクトまたは1グループで作り、絵として破綻しないものです。
しかし、「構造体の非表示」でマッピングしたものは厚みがなく、この時点で絵としてアウトになるものが多いです。
また、モデルを複雑にするとすぐに破綻するので、好きな構図に出来ないのもアウトでしょう。
しかし、それらをクリアできれば、視点や光源を自由に変更でき、位置関係やパースを保ったまま構図やタッチを変えられる3Dは、強力なイラスト作成ツールとなります。絵心がなくてもプレビューを見ながら、直感的にイラストを作成できます。
3Dモデルは作り貯めておけばいろいろな向きに変えられるので、素材集からイメージにあった写真を探すよりも手軽です。
また、通常の2D(パスオブジェクト)に比べてバリエーションを作りやすく、角度やタッチを変えたりと変化に付けられるので、使い回しやすいのです。
タッチの変更も簡単なので、カットイラスト作成にはもってこいです。
しかしながら、1グループ縛りでは単純なものしか作れないのも事実です。
・バラバラに作って使う
最初からパーツごとに3Dで作り、イラストとして完成させるというものです。視点や光源などを一括制御できなくなりますが、自由度が上がります。ここではホットケーキを例に挙げて、1グループとバラバラを検証・比較してみましょう。
まず、1グループで作った場合。こんがり感を出すため陰影を暖色系にした結果、ブルーのお皿やバターまで赤くなり、全体がくすんでいます。
↑全体がくすんでいます。回転体なので変化のないシンメトリー
シンボルは同じものを使用してるため模様が同一です。回転体のためモデルはシンメトリーになっていて、形状に変化がつけられません。
マッピングは14面あり、マッピングの貼り込みにも時間がかかります(実際に貼り込むのは4面)。
お皿ごとまとめて角度を変えられますが、やはり足かせも大きいです。

↑メリットは視点や光源か簡単に変更できること
次にパーツごとに作った場合。ケーキとお皿、バター部分の陰影カラーを別々に設定できるので色は思い通りに変更できます。
ケーキごとに回転でき、1つずつ移動できるので変化を付けられます。
1つ作ってコピーするだけで好きなだけ複製出来ます。
注目すべきは影です。手描きで描いて回転をかけた場合、影の落ち方が不自然になってしまいますが、回転を3D上でかけているので光源は一定です。よって影が正確に落ちています。
↑わかりにくけど、右は光源の位置は同じで影が計算されています
●加工して仕上げる
3Dはたいていの場合そのままイラストとしては使えません。
また、個人的な感想ですが「CGで作られたもの」は手描きに比べて魅力がないようにも思えます。
このももこさんをご覧ください。黒目やほお紅は曲面に配置されるので正円ではありません。
むしろ曲面に沿って正確に描写されているのに、作り物感というか違和感がありませんか?
©さくらももこ
試しに拡張して黒目とほお紅を正円にしてみました。また制限上、耳を付けられなかったので耳をつけました。これだけで「イラスト」としてだいぶ見られるようになったのではないでしょうか。©さくらももこ
このように途中までは3Dで作っておき、拡張して仕上げるという方式もあります。むしろ、こちらがIllustrator3Dの正攻法と言えそうです。3Dの作例を見回してもそのまま使うものは少ないですしね。
3Dから拡張すれば通常のIllustratorのパスオブジェクトとして制限の無い表現が可能になります。
ただし、後加工をスムーズに行うためには拡張時に影や非表示面、透明オブジェクトがどのように分割されるかを知っておく必要があります。
これはこれで別のノウハウが必要ですね。
●補助として使う
パースのかかったメカなどは正確な構図をとるのは難しいです。
簡単な3Dモデルを作り構図を決めて下絵とすれば、パースなども正確にとれます。
©創通・サンライズ
本格的にやるならば、本当の3Dソフトでやった方がいいのですが、あくまでもお手軽にということで。
また、曲面やパースのかかったマーキングなども3Dなら簡単に作れます。見本は筒ごと作っていますが、マークのみ作るという方法もありでしょう。
また、手描きイラストの一部パーツの作成にもいいでしょう。
ラフスケッチから魔法の杖を持つ少女のイラストを描くとします。
このとき杖を描こうとすると、1、角度やパースをあわせて曲線を正確に描写する、2、綺麗なカーブをベジェで描く、というふたつの課題に直面します。これを杖だけ3Dで作ってしまえば課題は難なくクリアできます。
©namco
しかし、わざわざ3Dモデルを起こすならば、そのまま描いた方が早いのでは? と思うかも知れません。
ものによってはそうかもしれませんが、イラストに3Dを使うメリットの1つはデッサン力、グラデ、メッシュなどのスキルが無くても直感的に描けることです。
加えて使い回しができるのも3Dのメリットです。
杖の角度が気に入らないとか、杖を振っている別カットを描く場合でも、プレビューを見ながら構図を変更するだけです。
©namco
せっかくなのでもういっちょ。
女戦士の楯なんかも同じ手法でできますね。
©namco