●比較の解説
1. 書類の作成~マージン設定
2つの例では、ページに対する概念が全く違います。
・Illustrator
Illustratorはあえて古いやり方の、大きめアートボードにトリムマークをつける方法で作業しました。判型、裁ち落とし、トリムマーク、マージンなどはツールで作成しており、大きな台紙の上にトンボを作ってレイアウトを組むというアナログと同じ作成方法、考え方です。
・InDesign
対してInDesignは作成時にサイズやマージンを指定するので、アプリケーションが判型、裁ち落とし、マージンを認識しています。
★InDesignのメリット~ページサイズ
InDesignではドキュメントサイズ=判型が一般的です。裁ち落としやマージンはアプリケーションが管理するので例えば判型の変更があった場合、InDesignではダイアログから数値を変更するだけですが、Illustratorは判型、裁ち落とし、マージン全て修正しなければなりません。
ここは反論があると思います。Illustratorでも現在はアートボード=ページとするのが主流になりつつあります。座標もInDesignと同じ左上になり、トリムマークもプリント設定で付けることができるので、考え方はページレイアウトソフトと同じです。ただし、残念ながら版面の概念はありません。
また、出力時の保存形式(eps、ai、PDF互換チェック)やeps時のアートボード外のオブジェクトや複数アートボード、読み込み形式(アートやバウンディングの選択)などきちんと理解して作らなければ後工程に影響がでるので、InDesignほど単純ではありません。
2. タイトルの作成
ここでのポイントはマージンの概念です。
・Illustrator
Illustratorはガイド=目安で、マージン揃えはドラッグしてガイドに吸着させるという動作が必要です。入り組んだ状態では慎重にドラッグしなければなりません。また、今回のようにポイントテキストはアンカー以外スナップできないので、座標指定か整列を使うしかありません。
・InDesign
一方InDesignはマージンに対する揃えのコマンドが多数用意されています。これにより座標を気にすること無くオブジェクトを作成しても、後から簡単にマージンに揃えることができます。
★InDesignのメリット~版面の認識
マージンをアプリケーションで管理するので、版面という概念があります。ノドと小口が違う書籍でもマージン内=版面のセンター揃えなど、数値を確認しなくても簡単に揃えられます。レイアウト作業では版面の揃えは多用するのでマージンの認識と揃えコマンドは強力です。
3. 画像フレームとキャプション~複製
ここのポイントはテキストフレームとフォントサイズです。
・Illustrator
といいつつIllustratorのフォントの認識は前に説明してしまいましたね。
Illustratorではキャプション用のテキストフレームは計算して内容に合わせました。ちなみに最新のCCで搭載されたテキストエリアへの変換でもフレームはフォントのサイズ(20Qなら5mm)にはならず、整列やスナップを行うには計算は不可欠です。
また、テキストフレームは選択ツールで選択してしまうと中のテキストも変形してしまいます。ダイレクト選択ツールでフレームのみ選択するか、エリア内文字オプションを使わなければならないのも煩わしい点です。
・InDesign
一方InDesignは「フレームを内容に合わせる」でフィットさせるだけでフォントサイズにキッチリと揃います。
フレームを変形しても内容は変形しません。これは場合によっては不便に思えるかもしれませんが、w/hとxy拡大/縮小のフィールドが分かれており、フレームを変形する場合はw/hに、内容ごと変形させる場合はxy拡大/縮小フィールドに単位込みで入力と、どちらでも出来るようになっています。
また、画像とキャプションの間隔は、Illustratorでは整列を使いましたが、通常はInDesignも同じ操作です。しかしここでは無償配布されているスクリプトを使って大幅に手間を省いています。このように、有用なスクリプトが多く配布されている点にも注目しましょう(IllustratorはIllustratorで便利なスクリプトやアプリが配布されていますけどね)。
★InDesignのメリット~フレームのフィット
「フレームを内容に合わせる」は余ったフレームをピッタリ揃えてくれるだけでなく、あふれ文字にも有効です。Illustratorでテキストフレームを整えた場合、リフローした行を表示するには行送り分を計算しなければなりません。一方InDesignはフィットさせるだけでペロッとあふれ文字も表示します。フィットはよく使うのでショートカット登録をオススメします。
4. 帯部分作成
ここでのポイントはテキストフレームのオプションです。
・Illustrator
実はここでもIllustratorのフォントサイズの認識に悩まされています。整列でセンターに来ないのは致命的ですね(といいつつ実務であまり気にしないこともあったりするのはナイショ)。そのためにひと手間増えてしまっています。
また、Illustratorのテキストフレームも色を塗れますが、フレーム内でテキスト位置の調整はできないので(※)、帯とテキストの2オブジェクトに分けています。スマートではありませんが、修正を考えるとこれが妥当な線でしょう。
(※厳密に言えば位置の調整は可能です。エリア内文字オプションで外枠からの間隔を入れたり、ベースラインシフトで移動したり。ただし計算が必要であり、サイズ変更などの修正にも手間がかかります)
・InDesign
一方InDesignはフレーム内でのテキスト位置はフレームの中心や下揃えに出来るので、一つのオブジェクトで帯が作成できます。移動時に置き忘れることはなく、帯サイズ、フォントサイズどちらに修正があってもテキストは自動でセンターに追従します。
★InDesignのメリット~テキストフレームオプション
Illustratorのエリア内文字オプションに匹敵する機能ですが、内容は大きく異なります。フレーム内のマージンを独立して指定することもできます。特にフレーム内での天地中央揃えは前述の通り、作成、修正共に作業を簡素化できる大きなメリットです。
ところで、Illustratorでエリア文字内オプションを使っている人はどれだけいるのでしょうか。
5. 流し込み(画像)
この画像配置の利便性が最大の相違点でしょう。
・Illustrator
そもそもIllustratorには画像フレームというものは存在しません。クリッピングマスクに画像を入れているだけなので、マスクのサイズに合わせたり中央に揃えるのはすべて手動です。
複製画像配置はIllustratorCCで対応しましたが、画像フレームの概念が無いので複数取り込めてもそこらへんに置くだけであまり意味がありません。せめてクリックした画像と差し替えるくらいのオプションでもあれば使えるのですが…。
古いIllustratorでもFinderからドラッグ&ドロップで複数配置できますので、いちちいクリックしない分そちらの方が手っ取り早いのではないでしょうか。
ここはフォーマット作成時にダミー画像をマスクしてから複製すると、今回のように同比率の画像の場合は配置の手間を省くことが可能です。
・InDesign
一方InDesignの複数の取り込みやワンクリックでの配置、フレームオプションでの自動サイズ調整など、利便性はIllustratorの比ではありません。Illustratorでは1点の配置、縮小、センター揃え、マスクで30秒かかりましたが、InDesignなら1秒かかりません。
★InDesignのメリット~フレーム調整オプションと複数配置
フレーム調整オプションは、予めフレームに位置やトリミング方法を指定しておけるので、配置するだけで自動で拡大縮小トリミングが完了します。また、複数配置も画像フレーム上をクリックするだけなので、100点あっても100クリックだけで配置を完了できます。
6. 流し込み(テキスト)
テキストの流し込みは通常操作では双方あまり変わりありません。
・InDesign
InDesignには強力な流し込みスクリプトがあるので、時間と手間を大幅に節約しています。さきほども言いましたが、作業を補助してくれる便利なスクリプトが配布されているのも強みです(POTは有償ですが、とても良心的な価格です)。
★InDesignのメリット~スクリプトの利便性
ショートカット化、フォルダに入れれば即座に反映、スクリプトパネルあり、とスクリプトが使いやすい環境が整っています。Illustrator標準でスクリプトは使えますが、メニューから選択するしかありません。ただ、Mac専用の「ScriptKeyAi」があれば、Illustratorの方が強力になりますけど。まあ、標準機能でできるInDesignすげーってことで。
●まとめ
この比較からわかるようにIllustratorは「ページレイアウトを作る」ということはあまり考慮されていません。位置づけとしてはパーツ作成ソフトなので、クリップアートを作るには不便はしないでしょう。しかし、いざ数値の決まったレイアウトを作ろうとすると出来なくは無いけど手間がかかります。
Illustratorしか使っていない場合はそれが当たり前なので不便を感じないかもしれませんが、実際はIllustratorの貧弱な機能のせいで余計な作業をしているケースもあるのです。
InDesignはページレイアウトをする上で必要なツールや、作業の補助をしてくれる機能がふんだんに盛り込まれています。ページものや段組みでなくても、InDesignは作りやすいことがおわかりいただけたでしょうか。
とはいっても装飾バリバリのデザインは苦手です。Illustratorのアピアランス、グラフィックスタイルほどの機能はないので、あくまでも「おとなしい」レイアウトに限りますが…。
あとは「慣れ」でしょうか。Illustrator基準で作業すると、最初はInDesignのクセに悩まされます。例えば画像フレームの移動や変形する際に、フレームと中身がごっちゃになったりしますよね。
UIが似ているから尚更なのかもしれません。使っているうちになんとなくルールがわかってくるものですが、最初はとっつきにくいことでしょう。それでもQXに比べれば遙かにラクではありますが。^^
また、機能が多過ぎます。こんなに覚えきれるかっ! と常々思っております。まあ、タマがいっぱいある分には、後々苦しくなることはないということでしょう。ここはプラス思考で。^^
まずはよく使う機能から身につけてゆきましょう。さあ、レッツトライ!
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実践での作業比較4
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